私たちが普段何気なく耳にする「純喫茶」という言葉。直感的に古き良きレトロな喫茶店を指すような印象を受けると思います。しかしながら、実際に何をもって”純”喫茶と呼ぶかを認識している人は多くないと思います。そこで、カフェ巡りを趣味として年間多くのカフェを訪問する身として、純喫茶とは何か?また、純喫茶ではない喫茶店やカフェ、パティスリーの定義について徹底的に調査して参りましたので、ここで紹介したいと思います。
まずは、分類を列挙してみます。
- 和菓子屋(和菓子店)
- 洋菓子屋(洋菓子店)
- パティスリー
- ホテルラウンジ
- ショコラティエ
- 甘味処
- 和カフェ
- フルーツパーラー
- サロンドテ(Salon de thé)
- カフェ
- 喫茶店
- 純喫茶
中には、夜はBarとして営業し、昼間はカフェとして展開するお店や、レストラン営業をしつつカフェ利用もできるカフェレストランなどもありますが、ここでは割愛します。
目次
1.和菓子屋(和菓子店) / 2.洋菓子屋(洋菓子店)
リストの1.和菓子屋(和菓子店)と2.洋菓子屋(洋菓子店)に関しては、文字通り前者は和菓子を販売するお店で、後者は洋菓子を販売するお店を指します。そこに価格による分類は発生しないため、地元密着の町のケーキ屋さんも、世界的に有名なパティシエさんが手がけるスイーツショップも、広義での洋菓子屋(洋菓子店)と言えます。例えば、フランス人パティシエで世界最優秀味覚賞を受賞したAntoine Santos(サントス・アントワーヌ)さんが手がける「クリオロ」は、公式サイト上では「洋菓子店クリオロ」と表記されています。では、洋菓子店と銘打っている「クリオロ」はパティスリーではないのか?という疑問が浮かびます。結論から申し上げると、パティスリーでもあります。
3.パティスリー
そもそもパティスリーとはフランス語でpâtisserieと書き、フランスとベルギーにおけるパティシエ資格を持つ職人がいるお店にのみ、法的に名乗ることを許された呼称です。ただし、日本においてはこのような法律は存在せず、パティスリーという名を冠すのは各店舗の自由です。先述した「クリオロ」のアントワーヌさんは、当然パティシエの資格を所持しているのでフランスやベルギーでお店を出す際は法的にパティスリーを名乗ることができます。よって、「クリオロ」は洋菓子店であり、パティスリーでもあると言えます。
そもそも日本においては、パティシエという名の資格は存在せず、近いものとして製菓衛生士免許と製菓製造技能士いう2つの国家資格がありますが、これらが無ければパティシエを名乗れないというものではありません。つまり、日本におけるパティスリーという呼称に定義や制約は存在しないという事です。そもそもpâtisserieという言葉には洋菓子という意味も含まれているので、洋菓子を取り扱っていればパティスリーを名乗ることに違和感はないでしょう。
PATISSERIE KIHACHI, pâtisserie Sadaharu AOKI paris, Patisserie ease, Patisserie-S, DEL'IMMO PÂTISSERIE & CAFÉ etc...
4.ホテルラウンジ
ホテルラウンジは、言わずもがなホテル内にあるラウンジを指します。ホテルラウンジの特徴として特筆すべきはアフタヌーン・ティーの存在でしょう。今はカフェやパティスリーにおいてもアフタヌーン・ティーを用意している店舗は多く見受けられますが、ホテルラウンジにおいてはある種非日常的な空間を味わう目的で利用される方も少なくない印象です。
元々アフタヌーン・ティーは英国上流階級文化の一つとして広く知られており、社交の場としての役割も担っています。1840年頃に端を発するこの文化は、19時から21時頃にオペラなどの観劇が行われ、夕食が観劇後の21時以降になってしまうことから、事前の腹ごしらえとしての役割も担っていたと言います。
ランデブーラウンジ・バー(帝国ホテル), ザ・ラウンジ by アマン(アマン東京), オリエンタルラウンジ(マンダリンオリエンタル東京) etc...
5.ショコラティエ
ショコラティエもイメージしやすいと思います。フランス語でchocolatierと書き、チョコレート専門の菓子職人を指します。パティスリー同様、フランスなどではショコラティエの資格が存在しますが、日本においては明確な資格はございません。また、厳密に言うとショコラティエの他にチョコレートメーカーという役職があります。チョコレートメーカー(Chocolate Maker)とは、カカオ豆からチョコレート素材を製造する職を指し、チョコレートメーカーによって製造されたチョコレートを用いてボンボンショコラなどのチョコレート菓子を作る職人をショコラティエと呼びます。よって、日本においてはチョコレート分野だけで大きく3つの分類ができます。
- チョコレート企業・・・森永製菓, 明治, LOTTE etc...
- ショコラティエ・・・LE CHOCOLAT DE H, CHOCOLATIER PALET D'OR, Musée du chocolat Théobroma etc...
- チョコレートメーカー・・・DANDELION CHOCOLATE, Minimal Bean to Bar Chocolate, green bean tu bar CHOCOLATE etc...
当サイトではジャンルの複雑化を防ぐためにチョコレートメーカーもショコラティエとして分類しておりますのでご了承ください。
6.甘味処
まず、甘味処の読み方についてですが、本来は「かんみどころ」ではなく「あまみどころ」が元でした。元々「あまみどころ」だったのが、後に甘味料(かんみりょう)が登場し、「甘味(あまみ)」を「甘味(かんみ)」と読むようになったことで、「かんみどころ」が定着したという話です。今ではどちらも正解ですが、「かんみどころ」の方が主流になっている印象ですね。さて、この甘味処の定義ですが、大辞林によると以下のように説明されています。
甘い味の菓子を出す飲食店。特に、あんみつやだんごなどの和菓子を供する店をいう。あまみどころ。
また、日本独特の業態ではありますが、甘味処の名を冠するのに法的定義は存在しません。ただ、その中でもある一定の特徴が見受けられます。まず特筆すべきはお品書きに「あんみつ」や「ぜんざい」があるという点です。そして、お店に長い歴史があるという点です。明確な定義が難しいながらこの2点が甘味処の特徴として挙げられると思います。ここで難しいのが、後述する和カフェとの違いです。
甘味処初音, 甘味処みつばち, 浅草いづ美, みはし, 銀座若松, 健康ほうじ茶専門店森乃園 etc...
7.和カフェ
先述した甘味処と和カフェの違いについてですが、甘味処の条件(個人的推察)に当てはまらない和をテーマにしたカフェが和カフェではないかと思います。かなり大雑把な分類ですが、具体例を挙げます。
神楽坂にある茶寮本店は2003年創業と比較的最近の創業で、メニューにはあんみつもありますが、パフェやおばんざいなどのカフェメニューも豊富で、筆者は甘味処ではなく和カフェに分類しています。ここで、改めて和カフェの定義を模索すると、
- 比較的創業が最近
- パフェなどのモダンなメニューも充実
- インテリアに近代的要素が含まれている
上記のような特徴が挙げられます。もちろん、これらの条件は私が実際に訪れて感じた個人的な印象に過ぎませんが、一つの考え方として参考になればと思います。
神楽坂茶寮本店, SALON GINZA SABOU, OMATCHA SALON, 茶寮翠泉 etc...
8.フルーツパーラー
フルーツパーラーといえば、なんと言っても新鮮なフルーツを使ったパフェやフルーツサンドが思い浮かぶと思います。中にはフルーツカフェと紹介されているお店もありますが、そもそもフルーツパーラーは1868年に日本橋千疋屋総本店が開業した「果物食堂」が起源と言われています。(諸説有り)
明治期に国家近代化推進のために衣食住の西欧化が積極的に進み、千疋屋が「気軽に西洋風の食事やデザートを楽しめる店」をコンセプトに展開しました。
ちなみに、フルーツサンドの有無はフルーツパーラーであるか否かの基準にはならないと思っています。昨今、フルーツサンド専門店も数多くありますが、中には清澄白河のHAGAN ORGANIC COFFEEのように、コーヒー専門店として展開しており、フルーツパーラーとは冠していない店舗もあるからです。ただ、こちらのフルーツサンドはかなりレベルが高いです。
千疋屋, 新宿高野, 資生堂パーラー, フルーツパーラーゴトー, フルーフ・ドゥ・セゾン, フタバフルーツパーラー etc...
9.サロンドテ(Salon de thé)
普段あまり耳慣れない言葉かもしれませんが、フランス語でsalon de théと書き、直訳するとティーサロンという意味です。フランス発祥の文化で、元々のカフェは政治家、哲学者、芸術家などが情報交換をする場として使われ、女性が入ることはなかったのです。そこで貴婦人たちはカフェとは別に社交の場を求め、できたのがサロンドテです。貴婦人たちは当時コーヒーより高価な紅茶をお菓子を合わせて優雅なひと時を過ごしました。よって、カフェよりも高級感のある雰囲気はサロンドテならではと言えるでしょう。昔は、カフェではドリンクのみ、サロンドテでは軽食も楽しめる。と言った違いがありましたが、現在ではその区別は通用しなくなりましたね。
Mariage Frères, LE SALON DE NINA'S, SALON DE THÉ LUVOND etc...
10.カフェ / 11.喫茶店 / 12.純喫茶
おそらく、多くの方がカフェと喫茶店の違いについて頭を悩ましているのではないでしょうか。今まで紹介してきた分類の通り、カフェと喫茶店も明確な違いが無いと思われるでしょうが、実はこの2つには法的な線引きがされているのです。
まず2つに共通する事項として、開業出店時に行政(保健所)に対して営業許可申請を届ける必要があります。この営業許可の種類によって「カフェ」なのか「喫茶店」なのかが分かれます。ここでは、わかりやすくそれぞれの条件を箇条書きにまとめました。
- カフェ
- 「飲食店営業許可」
- アルコール提供可
- 複雑な調理可
- 喫茶店
- 「喫茶店営業許可」
- アルコール提供不可
- 単純な調理のみ可
また、喫茶店と純喫茶の違いについては歴史的背景が関係しています。
大正時代から昭和初期にかけて、コーヒーが日本全国に広まり、喫茶店はアルコールの提供や、女性スタッフの過剰なサービスを提供するお店も増えていました。そんな中で、コーヒーや軽食のみを純粋に楽しめる喫茶店が「純喫茶」と名乗り、提供するサービスの差別化を図りました。それが、現在では古き良き昔ながらの喫茶店という意味合いも「純喫茶」であるという認識に時代とともに変化していきました。また、当時の背景から、アルコール類を提供しない喫茶店を「純喫茶」とする意見もあります。「カフェ」と「喫茶店」のような法的定義は「喫茶店」と「純喫茶」の間にはありませんが、歴史的背景を知ると興味深いですね。
ちなみに、話を戻すと、先述した「カフェ」と「喫茶店」の営業許可の違いはあくまでも店のシステムの違いであって、店名を規制するものではございません。例えば、「喫茶店営業許可」を届けているお店が「○○カフェ」と名付けても、「飲食店営業許可」を届けているお店が「喫茶○○」と名付けても良いのです。それゆえ、「○○喫茶」という名前でもアルコールを提供しているお店が存在するのは、届けは「飲食店営業許可」を出しているからです。